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第25曲 国民のアイドル、復活

مؤلف: あるて
last update تاريخ النشر: 2026-05-11 06:00:50
 パーソナリティの紹介を受けてスタジオ入りするわたし。

 目の前に鎮座するのは芸能界の大御所。拍手をしながらわたしを出迎えているものの、その眼差しはどこか値踏みをしているようにも見えるのは穿ち過ぎだろうか。

 さすがはというか、長年この世界に君臨してきただけあって、漂うオーラは普通の人のそれではない。

 人好きのしそうな柔和な笑顔で接してくれているものの、一筋縄ではいかない人間だというのはよく分かる。

 この人の機嫌を損ねたら芸能界で干されちゃうのかな、なんて呑気な事を考える余裕はあるけれど。

「どうも初めまして。歌手、そしてダンサーとして活動しているゆきと申します。まだ若輩者ですが、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

 まずは型通りの丁寧な挨拶。あまりいい印象を持てないとしても相手は年長者。最低限の礼儀は尽くしておかないと、社会人としても失格の烙印を押されてしまう。負けず嫌いの虫にはまだ大人しくしていてもらおう。

「あら、歌とダンスをメインに活動してらっしゃるんですね」

 この時点でわたしに興味がないと言っているようなものだ。普通ゲストとして呼ばれている人間のことく
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  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第38曲 精霊の正体

     あれからさらに一年が過ぎた。 残業続きでもうそろそろ解放してほしいんだけど、現世というブラック企業は簡単には逃がしてくれないものらしい。 最近は昔のことを思い出しながらボーっとすることが増えてきたと思う。 時間が突然飛んでしまうような感覚。 そういえばこの感覚って以前にも体験したことがあるような。 今日も一日が終わり、やや疲れた体をベッドに横たえて物思いにふける。「あぁ、そっか。若い頃、一度眠りについた時と同じ感覚だ」 忘れることが出来ないという全記憶障害で脳の容量が限界を迎えた時、わたしは一度倒れた。 記憶の整理に挑んでいたことと、たぶんもう一度精霊さんが手を貸してくれたことによってもう一度目を覚ますことが出来たけど、次はそういうことじゃないだろう。 今度はわたしの脳ではなく、寿命そのものが限界に来ていると思うから。 今の世の中、もっと長生きする人はたくさんいるけど、わたしは生きることに執着しているわけではない。自分が為すべきことを済ませた今、もういつ旅立ったとしても悔いはない。 ひよりとの間に男のが産まれ、他の三人との間にはそれぞれ女の子を授かった。みんなそれぞれが家庭を持ち、今では孫たちすらも成人するほどに大きくなった。 命をつなぐという生命としての役割は果たした。 歌手としても、懐メロと呼ばれるようにはなってしまったけど、今の若い子にも受け入れてもらえるような曲をたくさん残すことが出来たし、世代を超えた名曲ということでいまだにテレビなどでも流れることがある。「いろんな人に元気を届けること、できたかな」 芸能界に復帰したことによってたくさんのファンレターが贈られるようになり、その中には『元気をもらった』『小さな幸せの大切さを思い出した』などといった嬉しい言葉をもらった。歌手としてこれ以上ないほどの賛辞だと思う。「この老人ホームも、もう大丈夫だよね」 一年も経てばわたしが教えた料理のレシピもすっかり定着したし、いろいろ考えたレクリエーションも今では何も言わなくてもそれぞれが楽しんでくれている。わたしがいなくなっても暗い雰囲

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第37曲 最後まで使命を全うするだけ

    「結局子供四人に恵まれて、幸せな家庭に恵まれたよなぁ」 年月が過ぎ、為すべきことを為したと胸を張って言えるようになった。 治安の関係でアフリカにだけは行くことが出来なかったけど、中東や東南アジア、南米でもコンサートを開くことが出来たし、チャンネル登録も世界中の人からしてもらえることが出来た。「でも残念ながらギネス記録を塗り替えることはできなかったんだよねぇ」 三億人を大きく超えることはできたものの、当時の世界記録四億三千万という数字には及ばなかった。 それでもわたしが理想として追い求めた、世界中の人々に歌声を届けるということは達成できたし、たくさんの人を元気にする楽曲を作り続けることはできたと思う。 今はもう以前のように体が動かなくなって、声もほとんど出なくなってしまったけど、鮮明に残る記憶をたどれば十分幸せな人生を歩んできた。 決して平坦な道ではなかったけれど、たくさんの人々の助力を得られて突き進んでくることが出来た人生。「愛する人と共に暮らして、家庭だけでなく仕事の面でも支えてもらって、わたしは本当に恵まれた人間だったと思うよ」 ベッドの上で声に出す。 だけど答えてくれる人はもう誰もいない。「わたし一人だけが残っちゃったな」 わたしが愛し、愛された四人は一足先に天国へと旅立った。 あれから半世紀以上の時が経ち、わたしの周囲からいろんな人が去っていった。それを見送り続けるのも、わたしに課された『使命』なんだろう。 生き物はすべからく、産まれた瞬間から死に向かって歩きだすもの。 わたしが関わった全ての人に最後まで、幸せを届けて見守り続けることは『水の精霊』として当然のことだろう。「それにしても……残業長くない?」 子供たちを自分の家庭を持って壮年になり、最後まで寄り添い続けてくれたひよりも五年前に旅立った。 わたしの役割はとっくに終わったはずなのに、わたしはいつまでこの世に取り残されているのだろう。「みんなに……会いたいなぁ」

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第36曲 家族は計画的に

    「やっぱりアメリカのノリは日本とは違うね。会場全体の温度がいつもより高かったような気がするよ」 前回渡米したときのセンセーショナルなデモンストレーションはしっかりとアメリカ国民の記憶に残っていたようで、初コンサートだというのにチケットは早々に完売していたそうだ。プレミアチケットとして高値で転売もされていたというのだから、注目度は相当高かったのだろう。 告知ポスターにもわたしが銃弾を弾いた時の、発射前に構えを取っている姿が印刷されており、エンタメ好きのアメリカンにとっては興味をそそられるものだったのだろう。「事前のインパクトと今日という本番での実力が完全にマッチしたが故の熱狂でしょうね。ゆきさんなら当然です」 なぜか一番鼻を高くしているのは五代さん。 この日のために忙しく働いて力を注いでくれただけに、大成功に終わったのが誰よりも嬉しいんだと思う。今にも小躍りしそうなほどに機嫌がいい。 それだけわたしのことを真剣にサポートしてくれているということでもあり、ありがたいことなんだけどね。「これで愛人一号としての面目躍如です!」 まだ言ってんのか、そのネタ。 もうわたしも一児の父だというのに、いつまでその話題を引っ張るんだろう。行き遅れるよ?「わたしの目標はゆきさんをこのまま世界的大スターにして、その優秀な遺伝子を体外受精させてもらうことですから!」 とんでもねーこと考えてやがった。「わたしの遺伝子は量産型じゃないです!」 まったく、我が子の事を思うならちゃんとした父親は必要でしょうに。「いいんじゃねーか? 遺伝子くらい」「浮気にはなりませんね」「社会貢献」「悠樹さんの子なら可愛い子が産まれるのは間違いないもんね。うちの子もめっちゃ可愛いし」 うちの嫁たちはなんでこんなに寛容なんだ? わたしの子種がばらまかれることに抵抗感はないのだろうか。 ひよりはしれっと親バカ発揮してるし。「正妻から許可もいただきましたし、子種提供お待ちしていますね」 おいおい、本気か。

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第35曲 初心に帰り、果敢に挑む

    「おめーらがうかうかしてる間にゆきの愛人は六号まで埋まっちまったぞ」 より姉にチクられた。「どういうことか」「説明してもらえる?」 聞くや否や詰め寄ってくる文香と穂香。 久しぶりに見たよ阿吽の呼吸。さすがはわたしの金剛力士様。 ちょちょ。表情が怖いよ。本当に仁王様になってるから。「なんかね、わたしが何も関与しないままにみんなが勝手に愛人を名乗っていって、気が付いたらそんな数字になってたの」 何を言ってるのかよく分からないけど、本当にそうなんだから他に言いようがない。「それですでに六人も」「さすがというかなんというか」 感心されても困ります。「それじゃ、七号は元副会長に譲るか」「穂香は八号でいいの?」「ラッキーセブンと末広がりで縁起がいいね。あははは」 もうこうなったら笑うしかない。 土砂災害で濁流にのみ込まれてしまったような気分だけど。「全員を孕ませたらサッカーチームが作れるな」 チクった本人が何を呑気なこと言ってるんだ。一人補欠じゃねーか。「え、愛人って子供を産む権利もついてくるの?」「その権利は是非行使したいね」 そんなわけねーだろ。 嫁だけでも四人いるのにその上愛人まで孕ませるとかどんなクズやろーだよ。「二人ずつ作れば対戦もできますね」 かの姉は何言ってんの?「主審と副審もつく」 あか姉まで。確かに人数的にはちょうど合うけどさ。「絶倫だとは思っていたけど、そこまでとはね」 いや、干からびるわ。 ひよりはなぜ昔からわたしを絶倫と決めつけているんだろう。「バカな事ばかり言ってると今度のコラボに二人も参加させるよ」 かつてわたしと三人でダンスを披露したこともある二人。 息も合ってて上出来だったんだし、もう一度あの感覚を味わうのも悪くない。いつも一人だからね。「もうあんな風に体が動か

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第34曲 旧友たちもジョブチェンジ

     一年後にアメリカ横断ツアーをすることが正式に決定した。 その後にヨーロッパ遠征も決まり、今いくつかの国での交渉がすでに進んでいる。上手くいけばアメリカに続いてすぐにヨーロッパツアーを組むこと下出来そうだ。 人生という限られた時間の中で、できることなら早いうちにいろんなことを経験しておきたい。 それは生き急いでいるわけじゃなく、世界が広すぎるから。 アジアの各地も回りたいし、中東や南米なんかも行ってみたい。アフリカは治安の問題もあって未知数だけど。 まだ若くてわたしの商品価値が高いうちに世界を回ろうと思ったらスケジュールは詰めていかないと到底間に合わない。 まだまだ日本でもコンサートはやりたいし、アメリカやヨーロッパも一度だけで終わらせるのはもったいない。どちらも広いから一度で全土を回るなんて不可能だし。「今のところ日本の人気が高いフランス、イタリア、ドイツはほぼ決定ですね。でもどうせならあと何か国は回っておきたいでしょう」 五代さんがスマホでヨーロッパの地図を出しながら、開催国の目星をつけていく。「うーん、イギリスは外せないでしょ。あとギリシャにも行きたいし、スイスなんかもいいよね」「ヨーロッパと一言で言ってもかなりの国があるんだから、ある程度は絞らないと」 放っておいたらEU加盟国全部を回ってしまいそうな勢いに、ひよりが待ったをかける。 わたしは都合さえつくなら全部回ってもいいんだけどね。「さすがにEU全土を制覇しようと思ったら一年くらいかかりますよ。お子さんもいることですし、一か月程度で帰ってこようと思ったらあと三か国くらいが限度だと思いますよ」 一年もかかるなら子供は連れていくけどね。いっそ二年くらいあっちに住んでしまった方が速いかも。「今子供を連れて行くのもアリみたいなこと考えてるんでしょ。ダメだよ。日本にもファンはいっぱいいるんだから。一年も日本を留守にしたら日本のファンからクレームが来るよ」 それもそうか。海外進出ということで少し舞い上がっていたようだ。 ちょっと落ち着けわたし。「それじゃ、

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第33曲 世界を駆ける精霊

     ひよりとの子供が産まれ、半年ほどは仕事量をセーブした。 四人もママがいるのだから必要ないとは言われたものの、わたしも育児に参加したかったから。 今までの五人にもう一人増えてずいぶん賑やかになったけど、以前と変わらず温かい家庭は続いている。 お父さんとお母さんはもうすでに孫馬鹿ぶりを発揮していて、休みの日に孫と一緒に散歩するのが趣味になってしまったようだ。あれだけ忙しく休日出勤もしていたのに、最近ではしっかり休日を取るようになったほどだ。その分普段の帰りは前より遅くなったけど。 今日も二人して休みを取って、ずっと孫にべったりだ。「ゆきさん、お仕事をセーブしてるところ悪いんですが、ちょっと大きなオファーが入ってしまったのでなんとか受けてもらえませんか」 ひよりが退院してから連日のようにうちを訪れていた五代さんがとても申し訳なさそうな顔をしながらお仕事の話をしてきた。 ほとんど毎日来てたのに、しっかり仕事はしてたんだな。いつの間に。 出来る女は努力してる姿を見せないものなのか。白鳥のように。いつかその足元を覗いてやりたいけれど。「そろそろ育児も落ち着いてきたし、お仕事を頑張ろうと思っていたタイミングだったので大丈夫ですよ。それで、どんなお仕事ですか?」 もう既に保育園の申し込みも済ませ、後は抽選結果を待つだけだ。 わたし達の住む市はそこまで待機児童が多いわけでもないので、さほど待つことなく入園させることが出来ると思う。 そしてもうひとつ、お母さんが仕事で第一線を退き、意見役というか相談役のようなポジションに代わり、パートタイマーのような時間制で働くことを決意したそうだ。 わたし達も全員手を離れ、今までのようにあくせくお金を稼ぐ必要もなくなったことと、一番は孫と一緒にいる時間を増やしたという理由かららしい。まったく。 うちの子はパパっ子ママっ子になってほしいんだからおばあちゃん子にはさせないでよね。 そんなわけで本格的に仕事の方をスタートさせようとしていたタイミングだったので、オファー自体はありがたかったんだけど、さすがにその依頼元には驚いた。 なんとア

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第29曲 そして歴史は繋がっていく

     わたし達の関係は変わった面もあれば変わらない面もある。 妻であり、夫であると共に、兄であり弟でもある。  家族でありながら恋人であり、夫婦であり、やがて父と母にもなるだろう。  だけど根底に流れるものは変わらない。ずっと一緒に育ってきた、かけがえのない愛する人。 お父さんとお母さんはちょっと別枠ね。  あの二人は放っておいても勝手に仲良いし。 わたし達はというと、仲がいいのを隠さないでよくなった分、以前よりも公然とイチャつくようになったというか。  もはや公認のバカップルだ。 その仲の良さでは当然というか、あの結婚式から約一年、まずはひよりが身籠った。  産婦人科の先生が言

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第23曲 余興の弾丸、メインディッシュはこれからだ

    「ゆきちゃん!」 ひよりの悲痛な声が響き渡った。 わたしは腕を伸ばしたまま、微動だにしない。 怪我をしたわけではない。 ただ想像以上に凄まじい衝撃で、少々腕がしびれているだけだ。 その瞬間は誰が見てもまさに衝撃的だった。 9ミリパラペラム弾特有の高い音と共に、「ブォッ!」という空気を切り裂く掌底の音と、「パシ! パシパシィッ!!」という、弾丸がアクリル板に何度も跳弾する甲高い音が重なった。 次元が違う。 エアガンの時とは音も、衝撃も、迫力がまるで違っていた。

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第18曲 人を越えた反応速度

     こうして姉妹達との距離感もどんどん縮まっていく中、わたしの中にもある変化が生まれていた。 日々の業務は上手くいっている。作詞作曲をし、ダンスの振り付けを考え、綺麗な衣装をまとって唄い踊って録画する。 モデル業では何度も雑誌の表紙を飾り、テレビCMでの露出も増えてきた。 仕事面もプライベートでも、これ以上ないほどに充実した毎日を過ごしている。だって全ての業務に誰かが関わっているのだから。 撮影ではあか姉と話し合いながらスタイリッシュに映るにはどの角度がいいかを話し合い、何台ものカメラで撮った映像を複数のモニターで確認しな

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第14曲 婚姻届けは誰のため?

     さすが敏腕社長と言うべきか、記者会見の手筈を整えるのが敏速だった。 顔合わせをしてから数日後、五代さんから連絡があって日時と場所、そこに集まる記者たちまで決まっていたのだから。 記者会見は三日後と決まった。 だけど、その前にやっておくべきことがある。「それじゃ行こうか、ひより」「はい」 借りてきた猫のように大人しくなってしまっているひより。 これから向かう先を考えると仕方がないのかもしれないけど、妙にしおらしくなっているのが愛おしい。「緊張してるの?」

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